ご挨拶

ご挨拶

 

岡山大学病院メラノーマセンター長

森実 真

 

2022年度から3代目の岡山大学病院メラノーマセンター長を拝命いたしました森実 真です。2014年に根治切除不能の進行期メラノーマに対する治療薬として免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブが登場して以来、新しい治療法が次々に登場いたしました。こうした背景のもとで、初代センター長岩月啓氏先生の発案で、2015年に全国初の「メラノーマセンター」は開設されました。岩月先生の企画力・実行力に心より敬服いたします。2代目センター長である山﨑修先生は2017年度から複数の診療科で密な連携を取りながら最適な治療を最適な施設で行える体制作りにご尽力されました。開設後、メラノーマ新患患者数、入院患者数、手術件数は着実に増加しており、またメラノーマに関する学会発表や論文報告も同様に増えてきております。山﨑先生のこれまでのご尽力に厚く御礼申し上げます。

2022年度から臨床遺伝子医療学の平沢晃教授にもスタッフとして加わって頂き、がんゲノム医療についても充実したサポート体制で診療を進めることが出来るようになりました。

研究面においては、現在は細胞生物学の阪口政清教授、腫瘍微小環境学の冨樫庸介教授、そして薬理学の細野祥之教授とメラノーマに関する共同研究を進めております。患者様から頂いた貴重な生体試料を最大限に活かして、そこから得られるデータを臨床にフィードバックし、新たな治療に結びつけてまいります。

岡山大学病院は中国・四国地方で唯一のがんゲノム医療中核拠点病院であり、かつ臨床研究中核病院です。メラノーマの患者さんに最適な治療を提供し、かつ新しい治療に結びつくようなトランスレーショナルリサーチが展開できるよう、また次世代を担う、モチベーションの高い若手が育つように、スタッフ一同真摯に取り組んでまいります。今後ともご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い申し上げます。

(2022年5月)

 


 

メラノーマセンター開設3年

 

岡山大学病院メラノーマセンター長

山﨑 修

 

岩月啓氏名誉教授が2015年6月より岡山大学病院メラノーマセンターを開設され、3年が経ちました。メラノーマ専門医療に係わる医療従事者の連携により、中四国の拠点として集学的診療を提供し、関連施設と連携しながら、メラノーマに関する教育・研究の向上及び地域医療の充実と発展に貢献することを目的に掲げ、少しずつ軌道に乗り始めています。

進行期メラノーマの治療の進歩は目覚ましいものがあり、免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-1抗体(オプジーボ、キイトルーダ)と抗CTLA-4抗体(ヤーボイ)や、分子標的薬のBRAF阻害剤(タフィンラー)やMEK阻害剤(メキニスト)による個別化医療が展開されております。さらに新規治療での術後補助療法が承認され、複合療法の臨床治験が進んでいます。数年前まで有効な抗がん剤がなかったことを思えば、隔世の感があります。 

実際の診療は初発時での診断、治療方針の決定、再発時の治療方針の決定にかかわり、関連病院と連携を進めています。新規治療の副作用も多いので内分泌センター、総合内科、眼科など関連科と連携しています。さらに進行期となれば緩和ケア外来、がん看護外来、地域医療連携室、在宅医療機関との緊密に連携し、トータルサポートしています。新規治療の登場もありましたが、メラノーマセンター開設後、新患患者数、入院患者数、手術患者数ともに徐々に増加しています。県内だけでなく、中四国の関連病院からご紹介いただいています。また中四国では唯一治験に参加しています。

当センターは岡山大学と津山中央病院共同運用のがん陽子線センターと連携しているところが特徴の一つです。メラノーマでは脳転移や緩和照射以外放射線治療は、あまり効果がありませんが、陽子線や炭素イオン線を利用する粒子線治療に高い効果が期待されます。従来の放射線治療に比べ、正常細胞への影響が少なく、副作用も抑えることができます。メラノーマは、時に鼻咽頭など頭頸部にも発生します。2018年4月から頭頸部がんの一部の粒子線治療も保険適用され、現実的な治療の選択肢になります。

研究面ではセンチネルリンパ節生検、血中5S-C-D値、FDG-PETCTなどの有用性についての臨床研究をしてきました。メラノーマの組織および末梢血の癌遺伝子変異解析、免疫チェックポイント阻害薬の免疫関連有害事象、医療費の問題や緩和治療との併用など多方面に着目して報告しています。現在免疫学教室や中性子医療センターと共同研究を展開しています。さらに大きな視野で新しい医療技術や治療薬などの開発をするための研究基盤として岡大バイオバンクへの生体試料収集と症例登録を推進してまいります。

大学病院は多くの専攻医を抱え、質の高い専門医の育成を目指しています。院内でのカンファランスや岡山メラノーマ治療研究会や講演会を主催して、診断や治療を教育できていると思います。その中で、次世代のメラノーマ診療の中核となる人材の育成を目指して、静岡がんセンターや大阪国際がんセンターとの人事交流をしています。若い世代の皮膚科医にとって魅力あるセンターでありたいと思います。

メラノーマは稀少疾患であり、大きな社会貢献はできませんが、この疾患を通じた研究や教育を地道に進めていくことにより患者様により良いメラノーマ診療を提供でき、地域医療の発展に繋がることを信じております。

(2018年7月)

 


 

岡山大学病院メラノーマセンター開設の経緯

 

岡山大学メラノーマセンター長
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科皮膚科学分野教授
岩月 啓氏

 

岡山大学病院ではメラノーマ(悪性黒色腫)に対して、病理診断、センチネル生検(分子マーカー解析含む)、手術、化学療法、免疫療法を実施し、実績を積み上げてきました。最近では、進行期メラノーマにおいても有効性が期待できる免疫チェックポイント(immune checkpoint)阻害薬の抗PD-1抗体や抗CTLA-4抗体が治療薬として使えるようになり、加えて、分子標的薬のBRAF阻害薬やMEK阻害薬が上市され、今後も新薬開発が続きます。また、津山中央病院に2016年春に導入された陽子線療法は、進行期メラノーマも治療適応になります。この数年でメラノーマ治療は劇的に進化してきました。これらの新薬や新治療を適正・安全に使うためには、がん遺伝子検査に加えて、自己免疫疾患のスクリーニングや免疫関連副反応のモニター等が必要とされます。

岡山大学病院では、メラノーマに対する腫瘍免疫に関する研究をリードしてきた実績をもとに、皮膚科、放射線科、免疫学教室、病理部で情報共有をしつつ、共同して基礎的データを集積してきました。今や、メラノーマ診療においては、皮膚科だけではなく、関係診療科との密接な連携がこれまで以上に大切になりました。このような背景から、2015年5月1日に全国初の「メラノーマセンター」を岡山大学病院に設置することができました。メラノーマセンターの開設目的は、1)中四国のメラノーマの診断・治療拠点として集学的診療を提供、2)臨床試験へのエントリーと医師主導臨床試験の促進、3)分子マーカー、基礎データの蓄積、4)生体試料収集と症例登録、5)陽子線療法へ対応です。一番の特色は、岡山大学病院だけのメラノーマセンターではなく、メラノーマ診療に取り組んでいる岡山医療センタ-や津山中央病院が関連施設として加わっている点です。

本センターは、メラノーマ診療の関係診療科の横断的連携に加えて、患者さんからいただいた貴重な生体試料を最大限活かして、そこから得られるデータを臨床にフィードバックし、新たな治療に結びつける目的があります。がん登録が法制化される中で、国際的に通用する正確なメラノーマ症例のデータ管理をする拠点としての役割も担っています。

メラノーマ患者さんに対し、最新かつ最適な治療を行うとともに、メラノーマという稀少な疾患を通じて、教育・研究の向上及び地域医療の充実と発展に貢献していきます。

(2017年3月)